最新キーワードから考えるこれからの人事労務(第1回:労働者の過半数代表者)
Today’s Key Word 労働者の過半数代表者
このコラムは、戦略人事(労務)の必要性を感じている中小企業経営者や人事労務担当者向けに書かせていただきました。人事労務に関する最新キーワードを解説しながら、これからの人事労務戦略のあり方を考えていくことを目的にしています。少し長いコラムですが、自社の人事・労務を戦略的に構築していきたいとお考えの方は、この先を読み進めていただければ幸いです。
第1回目のキーワードは「労働者の過半数代表者」です。
近年、企業における「労働者の過半数代表者」の重要性が高まっています。なぜ、「労働者の過半数代表者」が重要な役割を担うようになってきたのでしょうか?
(1)労働者の過半数代表者の役割とは?
「労働者(=正社員に限らず、パートやアルバイトを含めた全ての労働者)の過半数代表者」と聞いてまず思い浮かぶのが、36協定(時間外・休日労働に関する協定届)をはじめとする労働基準法関連の各種労使協定です。労働基準法における労使協定とは、会社(使用者)と労働者(過半数労働組合又は労働者の過半数代表者)側の間で締結する書面による協定です。
労使協定の締結(届出)は、労働基準法違反の状態に対しての免罰効果を持ちます。つまり、労使協定を締結すれば、一定の範囲内で法律違反を見逃してもらえると言う効果が発生するのです。
例えば、労働基準法では法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超えて働かせること又は法定休日に働かせることは、違反になります。しかし、事前に労使協定(36協定)を締結し、それを事業場を管轄する労働基準監督署に届出ておけば、一定の範囲までは、法定の時間外に働かせたり、法定休日に働かせたりしても罰せられません。
また最近では、労働基準法だけでなく育児介護休業法、高年齢者雇用安定法、労働者派遣法などにおいても労使協定の締結が求められるようになっています。また、労使協定の締結以外にも過半数組合又は労働者の過半数代表者に意見聴取等を求めるような法令が増えてきています。ちなみに、法令に「過半数労働組合又は過半数代表者」という言葉が登場するのは109箇所あるそうです。
このように「労働者の過半数代表者」は、法令による各種手続の労働者側当事者としての大きな役割を担っています。
(2)労働者過半数代表者が重要な役割を担うようになった背景
このように、「労働者の過半数代表者」の役割の重要性が高まってきた背景には、労働組合の推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)の低下があります。中堅企業を中心に労働組合の推定組織率が低下しています。厚生労働省令和2年労働組合基礎調査によれば、労働組合の推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は、令和2年には16.2%と10年前の調査と比べて2.3%低下しています。また、労働組合の数は、対前年比296件の減少となっており、この傾向は今後も続くものと考えられます。
なお、従業員1,000名以上の企業では、未だに労働組合が機能しているため、雇用者に占める労働組合員数(推定組織率)の減りはそれほど大きくありません。すなわち、労働組合員数はさほど大きく減っていないように見えます。しかし、労働組合員数の少ない中堅・中小企業では、労働組合が年間300件近いペースで減少しているため、件数ベースで見ると減少幅が大きく見えるのです。
法令では、労使協定の締結や意見聴取の労働者側主体として、もともと「過半数労働組合」を想定していました。したがって、「労働者の過半数代表者」はそのような労働組合のない企業での一過性の主体でしかありませんでした。ところが、これまで見てきた通り、労働組合のある企業が減少してきたため、一過性の主体でしかなかった「労働者の過半数代表者」の役割が徐々に高まってきたわけです。
(3)労働組合の数はなぜ減ってきているか?
次に、労働組合の推定組織率や件数はなぜ減少しているのかを考えてみましょう。その大きな理由として、社員構成の変化が挙げられます。多くの企業では、正社員(管理監督者以外)を労働組合の構成員とします。ところが、正社員は減少する一方であり、企業における正社員(=組合員)の比率が下がる一方です。
その背景としては、ご存じの通り①労働者の高齢化により定年退職→再雇用→嘱託社員の増加、②新卒社員や若手社員の採用控え、③パートタイマーや契約社員、派遣社員の増加などが挙げられます。さらに、今後は、新型コロナウイルスの影響によりテレワーク等の自由な働き方をする社員が増えれば、従来型のイメージの労働組合を組織することは益々難しくなっていくのではないでしょうか?
労働組合側もこの減少傾向に歯止めをかけるために、パートタイマーの組合員化等の方策を図っていますが、現状ではなかなか難しいようです。
(4)厳格化する労働者の過半数代表者の選出方法
以上のようなことから、3~4年前から労働者の過半数代表者を選出するときの手続が厳しくなってきたように感じます。
もともと、労働者の過半数代表者を選出するときは、以下の3つの条件に該当する人でなければいけないとされています。
①労基法第41条第2項に定める監督又は管理の地位にある者でないこと
②どんな協定等の当事者になるか明らかにした上で、投票、挙手等の民主的な手続を実施して選出する
③監督管理の地位にある者しかいない事業場は②の条件のみ満たす
さらに最近では、過半数代表だという書面による証拠等を求められることもあります。例えば、行政官庁から、従業員の過半数がサインした書面を明示するように求められることがあります。
また、先述した通り、「過半数代表者」は一過性の主体であると考えられるため、個々の労使協定を締結する都度選出しなければいけないという指摘をされてしまうこともあります。
労働組合が減少傾向にある中では、このような選出方法の厳格化の傾向が強まるのではないかと見ています。
(5)戦略人事・労務という観点から見た「労働者の過半数代表者」の役割
ひと昔前までは、何でも言うことを聞いてくれそうな従業員に声をかけて労使協定にサインしてもらったり、印鑑を押印してもらったりしていた会社もあるかもしれません。しかし、今後はそのようなやり方は認められない可能性が高くなってきました。
そこで、当事務所では、労働者の過半数代表者の役割を風通しの良い組織(当事務所のご提案する「クリスタル企業」)作りのための重要なキーマンとしていく育成していくことをご提案します。
【労働者の過半数代表者との関わり方の例】
①「労働者過半数代表者選任規程」を作成し、任期、選出方法、職責などを規定
②「労使委員会設置規程」を作成し、労使委員会での審議・協議事項などを規定
③過半数代表者を中心として、定期的に労使委員会を開催
④労使委員会の内容は過半数代表者を通じて、全従業員に公開
⑤過半数代表者を通じて、従業員の意見等を集約
上記は、一つの例です。ここで伝えたいのは、労働者過半数代表の制度を単に労使協定の締結のためだけに利用するのでなく、労使協議のための仕組みとして利用して欲しいということです。
本来であれば、中小企業にも、企業内労働組合はあった方が良いと考えます。なぜならば、組合活動を通じて、労働者が経営に関わっているという実感を得られやすく、特に現在のような殺伐とした社会の中では、労働組合をうまく運営すれば、会社と労働者の間に一体感が生まれやすくなると考えるからです。とは言っても、中小企業では、単一組合の運営を維持するのは大変です。
当事務所では、そのような中小企業に労働者の過半数代表者の選任の仕組みを応用して、会社と従業員の一体感の醸成を目指していただきたいと考えています。このような仕組みの構築にご興味のある企業様は是非ご連絡お待ちしております。
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